芝とダートは別競技 ― モデルを分けた理由
芝で圧勝した馬が、ダートに替わった途端に馬群に沈む。競馬ではよく見る光景です。データ上、この2つはどう違うのでしょうか。
求められる資質が違う
芝とダートは、同じ「地面を走る」競技でありながら、要求される能力が大きく異なります。
- 芝:反発力を活かしたスピードと、瞬間的な加速力(いわゆる「決め手」)が問われます。上がり3ハロンの速さが結果を左右する場面が多くなります。
- ダート:砂を掻き込むパワーと、前に進む推進力が重要になります。また、砂を被ることへの精神的な耐性も必要です。前に行った馬が有利になりやすい傾向があります。
この違いは血統にも表れます。芝向きの種牡馬、ダート向きの種牡馬という区別が実際に存在し、産駒の成績にはっきりと差が出ます。
1つのモデルでは表現しきれない
予測モデルを作るとき、最初は芝もダートも1つのモデルで学習させていました。「馬場種別」を特徴量の1つとして入れておけば、モデルが勝手に区別してくれるだろう、という発想です。
しかしこれには問題があります。決定木ベースのモデルは、特徴量を分岐条件に使います。「馬場種別=芝なら…」という分岐は作れますが、それは木の一部でしかなく、他の特徴量(スピード指数、脚質、枠順など)の重みづけを、芝とダートで完全に切り替えることはできません。
「芝では上がり3ハロンが重要だが、ダートでは前半のポジションが重要」といった、特徴量の効き方そのものが変わる関係を、1つのモデルで表現するのは難しいのです。
モデルを分割する
そこで、芝専用モデルとダート専用モデルを別々に学習させ、予測時に馬場に応じて切り替える構成にしました。こうすると、それぞれのモデルが自分の土俵に集中して学習できます。
芝モデルは芝のレースだけを見て「芝で勝つ条件」を学び、ダートモデルはダートだけを見て「ダートで勝つ条件」を学ぶ。結果として、それぞれの精度が上がります。
未経験の馬をどう扱うか
ここで難しい問題が生じます。芝しか走ったことのない馬を、ダートのレースで予測するとどうなるか。
その馬には「ダートでの成績」というデータが存在しません。ダート適性、ダートでの枠順相性、ダートでのコース実績——すべてが空欄です。モデルはこれを「データ欠損」として扱い、多くの場合、評価を大きく下げます。
これは統計的には正しい判断です。実際、初ダートの馬が期待を裏切ることは珍しくありません。競馬ファンが「初ダートは割引」と考えるのと、モデルの判断は一致しています。
ただし行き過ぎることもあります。血統的にダートをこなせそうな馬でも、実績が無ければ一律に評価が下がってしまう。当サイトでは、そうした馬に「初面」のタグを表示し、適性データを全体の平均値で補うことで、極端な評価を避けるようにしています。それでも参考値であることに変わりはありません。
データが教えてくれること
芝とダートを分けて分析すると、同じ「競馬」でありながら、勝つための条件がまったく違うことが数字ではっきり見えてきます。芝の名馬をダートで走らせても勝てるとは限らない——経験則として知られていたことが、データでも裏付けられるわけです。
勝率予測ツールで同じ馬を芝とダートで切り替えて計算してみると、この違いを体感できます。